2014年4月19日土曜日

Royals

ニュージーランド生まれのロードは、現在17歳の女の子。決して超美形というわけではないし、声や歌い方も随分と落ち着いた雰囲気だが、うちの娘とは1年と歳が変わらない。















「同じ世代」という贔屓目があったのか、娘の自慢は「デビューする前からロードを知っていたこと」らしく、2012年11月の時点でSoundCloudに無料公開されていたThe Love Club EPをダウンロードして毎日のように聞いていた。去年は女の子ばっかり大挙して、ロードの初コンサートツアーも見に行かれなすって、帰りに迎えに行くと「緊張してたみたいだけど頑張ってた」などと評論してた。

そんなロードの音楽が2013年の夏頃からラジオから盛んに漏れ聞こえてくるようになり、
「女王とお呼び」、「キャデラックに乗っているの」みたいな歌詞に反応して、ちょっと小ばかにしてみると、うちの娘は、「歌詞の内容を何にもわかってない」などとツンとする。

悔しいんで歌詞を調べてみると、確かに中々に深みのある曲だ。そんなことを考えてから、もう半年も経ったわけですが。





Royals by Lorde (2013)

I've never seen a diamond in the flesh
I cut my teeth on wedding rings in the movies
And I'm not proud of my address
In the torn up town, no post code envy
 
1)
ホンモノのダイヤなんて見たことないわ
映画に出てきた結婚指輪を食い入るように見ていたの
住んでいる場所なんて自慢にならないわ
こんな薄汚れた街並みの、郵便番号を羨ましがる人なんていない
 
 
[Chorus]
But every song's like:
Gold teeth
Grey Goose
Tripping in the bathroom
Bloodstains
Ball gown
Trashing the hotel room
We don't care, we're driving Cadillacs in our dreams
 
2)
でも、最近の歌ってみんな一緒
金の入れ歯
グレイグース
トイレでハイになること
血の染みつき
ダンスホール向けのドレス
ホテルでの大騒ぎ
こんなのどうでもいいわ
夢の中ではキャデラックに乗ってるから
 
 
[Chorus]
But everybody's like:
Crystal
Maybach
Diamonds on your timepiece
Jet planes
Islands
Tigers on a gold leash
We don't care, we aren't caught up in your love affair
 
3)
でもみんな同じ歌ばかりなのよ
クリスタル
マイバッハ
ダイヤ入りの時計
自家用ジェット
南の島
金の鎖に繋がれたトラ
こんなのどうでもいいわ
あなたたちの悪趣味に興味なんかないもの
 
 
[Chorus]
And we'll never be royals (royals)
It don't run in our blood
That kind of lux just ain't for us, we crave a different kind of buzz
Let me be your ruler (ruler)
You can call me queen bee
And baby I'll rule, I'll rule, I'll rule, I'll rule
Let me live that fantasy
 
4)
王室ごっこなんてしたくないわ
そんな血は流れてないからね
高級品なんて私たちのものじゃない
もっと違う何かが欲しいの
あなたの支配者になりたいわ
女王蜂って呼んでも良いわよ
私が全てを支配するから
そんな夢を見させてよ
 
 
My friends and I we've cracked the code
We count our dollars on the train to the party
And everyone who knows us knows
That we're fine with this, we didn't come from money
 
5)
友達と一緒に全てを解読しちゃったわ
パーティに行く電車の中でお金を確かめている
私たちのことを知ってる人はみんなわかってる
私たちはそれで満足してるってことを
裕福な身分じゃないんだもの
 
 
[Chorus]
But every song's like:
Gold teeth
Grey Goose
Tripping in the bathroom
Bloodstains
Ball gowns
Trashing the hotel room
We don't care, we're driving Cadillacs in our dreams
 
[Chorus]
But everybody's like:
Crystal
Maybach
Diamonds on your timepiece
Jet planes
Islands
Tigers on a gold leash
We don't care, we aren't caught up in your love affair
 
[Chorus]
And we'll never be royals (royals)
It don't run in our blood
That kind of lux just ain't for us, we crave a different kind of buzz
Let me be your ruler (ruler)
You can call me queen bee
And baby I'll rule, I'll rule, I'll rule, I'll rule
Let me live that fantasy
 
 
ooh ooh oh ooh
We're better than we've every dreamed
And I'm in love with being queen
ooh ooh oh ooh
Life is great without a care
We aren't caught up in your love affair
 
6)
ooh ooh oh ooh
私たちって、自分で夢描いている存在より良いものよ
自分自身の女王であることが堪らなく好きなの
ooh ooh oh ooh
人生って、細かいコトを気にしないほうが良いのよ
あなたたちの悪趣味に興味なんかないもの
 
 
[Chorus]
And we'll never be royals (royals)
It don't run in our blood
That kind of lux just ain't for us, we crave a different kind of buzz
Let me be your ruler (ruler)
You can call me queen bee
And baby I'll rule, I'll rule, I'll rule, I'll rule
Let me live that fantasy

 
 
 
 







○ 解説 ○

Royalsを端的に説明すると、「物欲的なポップカルチャーへの反逆」だ。

ロードは、14歳の時にユニバーサルと契約し、そこからシンガーソングライターとしての手解きを受けて音楽業界に入った。The Love Club EPは、16歳になってちょうどの頃だから、この曲を作ったのは15歳のころ。練習のために、ポップソングを聴いて自分のギターでカバーするようなことを続けながら、「メロディは良いのに、歌詞は酒とか薬とかジュエリーばかりで馬鹿みたい」と思っていたそうな。ようするに、この曲のタイトル「ロイヤルズ」(王家の人)の意味は、「ポップカルチャーという幻想を、ティーンエイジャーに売りつけて、大金持ちになった人たち」のことなわけ。

そう言われると、「Queen Bee」(女王蜂)でビクっと来る。これは、”ポップ界の新女王”なんて言われる、「Queen B」こと”ビヨンセ”のレトリックなわけね。


1)
流石にダイヤモンドを目にしたことがないって子供はいないと思う。ニュージーランドも、きっとショッピングモールに行けば宝石チェーン店の1つや2つはあるだろうし、このあたりは「自分の境遇」をリリカルに強調するためのものだろう。

Royalsのミュージックビデオを見ればわかる。普通のティーンエイジャーは、高級車を乗り回してデートなんかしないし、ただただ時間を過ぎるのを無意味に待っていることが多い。妙なボクシングで口の中を切ってしまったり、テレビのチャンネルを変えつづけたり、プールの底に立てるかどうか確かめてみたり…。

アメリカは、その国土が5桁の郵便番号に統一されていて、ニューヨークは1から始まり、カリフォルニアは9から始まる。それを細分化すると、1990年代のTVドラマ「ビバリーヒルズ青春白書」(原題: Beverly Hills 90120)みたいに、郵便番号から生活水準が特定できるような場所もある。「Post Code Envy」(郵便番号への妬み)って、ニュージーランドにもあるんだろうか?

2)
Royalsには短い単語が連なっていて意味が分かり難いものがあるけど、「Queen B」と同じで、その多くがポップアーティストに繋がってくる。抽象的なものは特定できないし、そのあたりは個人攻撃にならないようにロードやプロデューサーも気を使ったはずだけど。

「金の入れ歯」って、既に80年代あたりからラッパーの間では流行し始めていた。まあ偽物だろうけどダイヤモンド版もあって、自動車のフロントの銀色部分に見立てて「グリル」って言うんだよね。ロードのことなら、白人なのにグリルを付けて笑われちゃった”キーシャ”のことを指しているんじゃないかと推測。

「グレイグース」はウォッカの高級ブランド。適当に検索すると、”カニエ・ウェスト”の「Primetime」という曲の中に、「お気に入りのクラブに出掛けてグレイグースをオーダーする」(I hit the club and order some Grey Goose)という歌詞がある。

「トイレでハイになること」
「trip」は、麻薬を利用するという意味。ハリウッド映画なんかでは、イケイケ状態を維持するためにトイレで鼻からコカイン吸ってるようなシーンは良くあるね。

「夢の中ではキャデラックに乗ってるから」
この一節はどう解釈するべきか。本当はキャデラックに乗る生活がしたいということか、それとも、そんなのは夢で十分ということか。後者だろうね。

3)
「クリスタル」は水晶のことか、合成麻薬の「クリスタル・メス」のことか。どっちにせよ、成金・物欲趣味なヒップホップカルチャーとは関連性が深い。”リアーナ”が「Crystal」って曲を持ってる。

「マイバッハ」は高級車。”マイリー・サイラス”とか”Pダディ”を始めとするセレブの愛車。

「金の鎖に繋がれたトラ」は、確実に”ラナ・デル・レイ”の「Born to Die」のミュージックビデオを意識したもの。ロード自身が個人的に良く聞いていたポップアーティストに上げているし、その歌い方からも影響を受けているのはわかる。

4)
前半と後半で異なる感情がぶつかり合っている感じ。特に後半は「本当はあんな生活を夢見ている」っていう、「子供のお姫様への憧れ」と、「私のような生身の生き方を崇拝しろ」という対極的な意味を重ねていて非常に秀逸。こんな詞を15歳で書くんだから最近の高校生は侮れない。

「lux」とはluxuryとかdeluxの省略形。

「buzz」とは、ブンブンと蠅が飛んでいる音のことのことだけど、「皆が注目しているもの」という意味もある。「上級生活への崇拝じゃなく、違ったトレンドが欲しい」ということ。「love affair」は情事という意味だけど、「他人の物欲を傍から見ている白けた様子」を示唆しているので、「悪趣味」とちょっと無理やり変換。

5)
パーティと言っても、どうせ友達の家に集まるだけ。ハリウッドスターのような豪勢なパーティなど無縁の生活。「シンディちゃん、ソーダとおやつ持ってきてって言うてたで」、「お金足りてる?」、「あかんわ。帰り、歩きやな」。そんな、普通のティーンエイジャーの生活で、ティーンエイジャーたち自身は満足し、それなりに楽しんでいる。

6)
まあ、この歌でロードの言いたいことをまとめた見たいなエンディング。

サンフランシスコはお金持ちが多い。娘の知り合いなんかにも、超有名レストランのオーナーとか、ソーシャルネットワークの開発者を親に持つ、みたいな子供たちもいて、娘も「普通過ぎる自分」に劣等感を持ちつつ、それをバネにして成長しているんだろう。

日本では、ポッと出の10代の女の子が、いきなりAKB48やらジャーニーズ批判の曲なんて歌い始めたら、即メディアから排除されてしまうかも知れない。でも、大人から押し付けられた物資主義的な生活への憧れでなく、「自分の本分を理解した生き方」をしようとするティーンエイジャーも少なからずいるんだということをこのRoyalsは訴えかけて、それなりに支持する人たちもいる、とバブルの頃にティーンエイジャーだった私は思うのです。


おススメ
自分の生き方を求めたい、という若者たちが聴く曲